花(はな)

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えっ? 顔を上げると前の席の人が後ろを向いていて、「2つあるからやるよ」と言って、また前を向いた。 「ありがとう」 僕が背中に向かってお礼を言うと、前の人がうなずいた。 ほんの少しだけ角が削れた、新品に近い消しゴムを握りしめる。 するとさっきまでの緊張が薄れて、気持ちが落ち着いてきた。 午前中の3科目を受け終えてお弁当の時間になった時、僕は思いきって前の人に話しかけた。 「消しゴムありがとう。すごく助かったよ。 使っちゃったから、新しく買って返すね」 「いいよ。俺が勝手にやったんだから」 その時、初めて前の人をきちんと見た。 意志の強そうな目をしたその人は、喋り方もぶっきらぼうで一見怖そうに見えるけれど、僕にはすごく優しい人だって思えた。 「ありがとう。 じゃあ、これもらっておくね」 僕が笑いかけると、彼はビックリしたみたいに僕を見つめた。
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