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熱のせいか、雛子の目が潤んでいるように感じた。
「……雛子……」
ポテトサラダごと、雛子の手を握りしめて俺は雛子をそっと引き寄せた。
だんだんと伏せていく彼女の瞳は、OKの合図だと思って良いんだよな?
今度雛子から買い物を頼まれたら、俺はもう負けない。
二度とおばさんなんかに負けるものか……!
無敗の誓いも兼ねてのキスを雛子にしようとした時、ロックしたはずのアパートの鍵がガチャンと音を立てた。
キィーと微かな金属が擦れる音がして雛子は俺の背後のドアに目を向けた。
「あっ」
バツの悪そうな表情で、雛子は俺から離れてドアを開けた人物の元へ寄った。
雛子のその顔が何を意味しているのかわからないで後ろを振り返ると、そこには年配の女性が立っていた。
「……一応紹介しとくね。私の、お母さん」
その女性は俺を驚いた顔で見てから、右手に下げたビニール袋にごそごそと左手を入れた。
そこから出てきたのは、俺が手に入れられなかった春雨の中華サラダと、俺が勝手に入れたカッパ巻き。
「……初めまして。雛子の母です」
そう言って、雛子の母さんはスーパーで見せた不敵な笑いを俺にした。
ーーーー誓いのキスの前でよかった。
もう負けないと決意したが
俺はもう勝てそうにない……。
終
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