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「うーーみィーーッ!」
その女は一度だけ大きく叫ぶと、夕日の沈む海をじぃーと見つめていた・・・。
俺は微動だにしない女の横に立って、また『ふっ』と目を横にやった。
――……静かに泣いていた。
『…なッ―――』
俺が驚いて小さな声をあげると、女の肩がピクッと揺れた。俺の存在にやっと気付いたようだ。
「フラれたの」
虫の羽音の様な、わずかな音を女は発した。俺は何も言わず、女の話を聞くことにした。
「ずっと付き合ってて、何回もッ―結婚ッ―、とか話してッ―た、―ッのに」
波音と鼻水をすする音で、ブツブツと途切れながらも、女は恋人にフラれた悲しみを語った。
「海、―初めて、彼―と、来た、時―も夕日がすごッ―く綺麗で」
俺は思わず女を抱き締めた・・・
初めは変な女。と呆れていたはずなのに、いつの間に女は弱々しい小動物の様になってしまったんだろう・・・と。
『じゃぁ、今日は俺が彼氏になるから。もう、泣かないで』
恋愛には、それなりのプライドがある俺が、初めて会った女に“付き合え”など言えるはずもなく、『1日限り』というルールをつけた。
「今日だけ私は、あんたの……彼女??」
キョトンとする彼女に、頷いてみせると満足気に頷いて返した。
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