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前の前の前のパパが持ってきて以来、ぼくはコレでテーブルに繋がれるようになった。
同じようにママの両手首を左右のピアノの脚に、両足も近くの鏡台とクローゼットの脚に繋ぐ。穴に通した時のチキチキと響く音が楽しかった。
ピアノの上からてしゃねこの顔が笑いかける。まるで『それでいいよ』と言ってるみたいに。
大の字になってまだ眠っているママ。下着の肩紐がずり落ちておっぱいが出ている。
ママのおっぱいに触ってみると、柔らかくてすべすべしててすごく嬉しい気持ちになった。ほっぺたでスリスリしたらもっと幸せな気持ち。
パパたちがママのおっぱいを赤ちゃんみたいに吸ってるのを見ると、すごくスゴクスゴク嫌な気持ちになったのに。
「やめてよ……ガキが」
頭の上にママの声が落ちた。途端にジタバタと起き上がろうとしたみたいだけど。
「ムダだよママ。ピアノは重いし、鏡台もクローゼットも何番目かのパパが転倒防止とか言って壁に固定したじゃん」
「ちょ……コレあんたがやったの? つか五歳のくせにナニその喋り方……気持ち悪……っ!」
ホントだね。なんでぼく、こんなに頭と心が冴えてるんだろう。
ピアノの上で、てしゃねこが笑う。
ねえ君は、ナニモノなの……?
ぼくが台所から包丁を持って来ると、ママが掠れた悲鳴をあげた。
「な……なにすんの……、ちょっとミクトォォォ!」
まん丸くなったママの目。これじゃないんだ、幸せのカタチは。
「チェシャ猫と同じ……三日月」
──アパートの部屋に、ママの嬉しそうな叫びが長く響いた。
「笑ってママ、チェシャ猫みたいに。そうするとね、哀しくなくなるの」
サクサクと両方、三日月のカタチに切ってあげた。ほら、なんだか楽しそうな顔。
「た……たす、けて。誰か……」
「誰もこないよ。今までぼくが何回叫んでも、誰も来てくれなかったもん」
お口も耳まで、三日月に。サクサクサク。
『シシシ。シシシシシ……』
チェシャ猫が笑うからぼくも笑った。
動かなくなった大好きなママも笑ってる。ぼくたちみんな、同じ顔。
笑いながらチェシャ猫はまたスウッとどこかに消えちゃった。
「……りかこ先生、保育園についたかな。電話してここに呼ぼうっと」
次は大好きなりかこ先生。先生も……笑わせてあげる。
『シシシシシ死シシシ……』
【終】
後悪SS収録
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