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これでも昔は、斎と一緒に打ち合いとかしてたんだけどねぇ…。
今じゃもう、全然太刀打ちできないんだろうな。
そんなことを思いながら、テニスコートをじっと見つめる。
バレたら面倒だなと思ったけれど、大勢の女の子達に紛れていれば誰も私が他校の人間だなんてわかりやしない。
この中で私を知っているのは、斎ただ一人。
その斎はといえば、テニス部部長ということで、自分の練習はもちろん部員達の練習を見なくてはいけないし、こちらに目を遣るヒマなんてないはず。
私は安心して練習を眺めていた。
フェンスの向こう側では、蘇芳館テニス部の部員達が汗を流している。
さすが強豪校ということで、部員数は半端ない。
しかしその中で異彩を放つのは、やはりレギュラーの面々だ。
斎からよく話を聞いていたし、実力が他より飛びぬけているので、すぐにわかった。
「きゃーーっ!藤代せんぱーーいっ」
「幸也くーーーんっ!!」
主に女の子達が叫んでいたのは、この二人の名前。
藤代先輩というのは、藤代駿介(ふじしろ・しゅんすけ)君。
天才的なテクニックを持つ人物だと斎は言っていた。
そして幸也(ゆきや)君は、菊池君のことだな。
身が軽くてフットワークも良く、どこからでも正確なリターンができる人物。
副部長である小石川君とダブルスを組んでいて、この二人がとてもいいコンビネーションプレーをするらしい。
私がそんなことを思い返していると、コートに一際強い瞳を持つ少年が現れた。
またもや女の子達の悲鳴のような叫び声がこだまする。
「祐(たすく)くーーーーんっ!!」
「南条くーん、頑張ってーっ!」
私の目が大きく見開かれた。
この子が……南条君。
まだ一年生だというのに、そのポテンシャルは計り知れない、斎からそう聞いていた。
声援には目もくれず、相手側のコートを見据える瞳が、とても印象的だった。
勝気な表情は、ものすごく負けず嫌いなんだろうなと思わせる。
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