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そして、後には私と斎だけが残された訳で。
なんとなく気まずい空気が流れる。
どう言い訳しようか考えあぐねていると、斎が呆れたように尋ねてきた。
「どうした?」
私は誤魔化すように笑いながら、少しだけ後ずさる。
「えと…通りかかったもんだから」
「そうか」
「久しぶりに、斎のテニスが見れるかなと思ったんだ」
「…」
この空気、なんとかしてほしい。
……南条君のせいだーっ。南条君があんなこと言うからっ!
「い、斎?」
「何だ?」
ホントに、斎はわかっていたんだろうか?
あんなにたくさんの人に紛れていた、私の姿を。
「気付いてた?」
「…」
「南条君は…そう言ってたんだけど」
斎は、ふぅっと小さく息をつく。
そして、仕方がないなといったように呟いた。
「あぁ」
「よく…わかったね」
「フェンスの方に目を遣った時、舞が見えた」
「…そんなに視力よかったっけ?」
一番よく見える場所ならまだしも、私は離れた場所にいたのに。
そして、私の周りにはたくさんの人いた。
なのに、私を見分けられるなんて、かなりのものだ。
「別に……」
「ん?」
何か言いかける斎を、私はそっと覗きこんだ。
斎は私を避けるように背を向ける。
ムッ。
「何よーっ」
「少しくらい離れていても、わかる」
「…え?」
斎はコートの方に歩き出しながら、こう続けた。
「長い付き合いだからな」
私は斎に駆け寄って、腕を掴んだ。
斎が驚いたように顔をこちらに向ける。
「言い逃げしないでよ」
「…」
斎が訝しげに私を見る。
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