scene.2

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長い付き合いだから?…ホントにそれだけ? 思わせぶりな斎のセリフ。 私はそれを逃すまいと、斎に畳みかけてみた。 「それだけ?」 「…どういうことだ?」 「長い付き合いだから?」 「…何を言わせようとしてるんだ」 チッ。 それ以上の言葉が聞けるのは、もうちょっと先かな…。 私はふぅっと大きく息を吐きだすと、斎に笑顔を向けた。 「ま、いーや」 「何がいいんだ」 「別にー」 「…」 呆れたように溜息をつく斎を見上げ、私は言った。 「南条君って凄いね」 「…」 「プレー見てたら、何だか久しぶりに打ちたくなってきちゃった」 「…最近、やってないのか?」 「うん。別にテニス部って訳じゃないから」 「もったいないな」 「私は、遊びでやってるのが楽しいから」 「そうか」 昔、斎がテニスを始めたのをきっかけに、私も始めた。 楽しくて、すぐにテニスが好きになった。 でも。 ホントに好きだったのは、斎と打ち合うこと。 すぐにメキメキ頭角を現して、上手くなっていく斎に置いていかれないように、一生懸命練習した。 だから、コートの向こう側にいるのは、斎じゃないと意味がない。 学校が離れてしまったことで、それがわかった。 その時点で、私にとってテニスは趣味の一つになり、部活に入るという選択肢はなくなった。 「ね、練習終わった後、余力があれば…」 「久しぶりに打ち合うか」 私が驚いて斎を見遣ると、斎は表情を和らげ、私の頭にポンと手を置いた。 私が言いたかったことを斎が先回りして言ってくれたことがとても嬉しくて、トンッと勢いよく体当たりする。 「わかってるじゃんっ」 「練習が終わったら電話する」 「あ、待ってるよ?」 すると、斎はまた呆れたように溜息をついた。 「その格好で打ち合うつもりか?」 「…」 確かに。 スカートにサンダルじゃ、斎と打ち合いはできないよね。 「じゃあ、着替えとシューズ取りに家に一旦戻るね」 「あぁ」 私は校門に向かって駆け出そうとする。しかし、それを阻止したのは斎の腕だった。 首を傾げると、斎が少し笑って言った。 「走ると、またサンダルが壊れるぞ」 「…げ」 「またおぶる羽目になると、敵わない」 「何よーっ。いいじゃん、おぶるくらい何回でもっ」 そう文句を言いながらも、私の顔は満面の笑みで。
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