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ピンポーン
「はーい」
昼下がりの午後、寝そべったままテレビを観ていた主婦、倖田文月は重い腰を上げた。
玄関に立っていたのは、どことなく狐に似ているスーツ姿の男だった。
「お忙しいところ恐れ入ります。ワタクシ、奥様に耳寄りの情報をご提供いたしたく--」
「あ、ウチはセールスお断りでして」
「ああいえ、ワタクシ、確かにセールスマンではございますが、物品は売ってはおりません。ワタクシの取り扱っているものは、“占い”でございます」
「占いぃ?」
分かりやすく怪訝な表情になる文月。
「はい。ワタクシの占いで奥様の人生を少しだけ幸せにして差し上げます」
余りにも胡散臭い。もしや宗教勧誘ではと思った文月はドアを閉めようとした。
「結構です」
「そうおっしゃらず、テレビを観るおつもりでお話だけでも」
「あんまりしつこいと塩撒くよ!?」
「もし、ご満足頂く結果が出なければお代は結構です。無料でお占いいたします」
主婦の性か“無料”という言葉に弱い文月は、どんなに良い結果が出ても納得しない事にしようと決め渋々了承した。
「では、奥様の本日のご予定をお教え下さい」
「予定と言っても……。洗濯物をベランダに干して、スーパーに買い物に行って、夕ご飯を作るくらいだけど」
セールスマンは瞬きせずにジッと文月を見たまま口を開いた。
「洗濯物はベランダに干すのは凶です」
「えっ、どうして?」
「理由までは分かり兼ねません。お出かけする際はマスクを付けず化粧をして行くと小吉です」
「えっ、でも私花粉症だし、スーパーへ買い物に行くのにわざわざ化粧をする必要は……」
セールスマンは構わず喋り続けた。
「駅の方に足を伸ばすと吉です」
「商店街で福引をしています。もし挑戦するのなら赤い服の男性の次が中吉で、黄色い服の女性の次が吉です」
「3丁目のカラオケ店に豚の絵が描かれたペアルックのカップルが入った後に続けて入れば大吉です」
占うだけ占うと、セールスマンは「明日またお伺い致します。ではよい一日を」とお辞儀をして出て行き、文月は半信半疑のまま見送った。
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