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次の日。
「おはようございます、奥様。先日は如何でしたでしょうか」
「すっごいのね貴方って!」
文月は昨日の出来事を興奮気味に話した。
部屋に洗濯物を干した直後、ベランダにカラスの糞が大量に落ち、駅ではロケをしていた好きな俳優からサインを貰い、その後誰かに声を掛けられたと思ったら初恋の相手で、買い過ぎたからとヨーグルトを貰い、さらに福引きではデジカメが当たり、カラオケ店では入店十万人目のお客様となりご祝儀として年間フリーパスを貰った旨を伝えた。
それを聞いたセールスマンは微笑みを浮かべゆっくり頷いた。
「ご満足されたようですね。ではお代を頂きます。大吉が1回、吉が2回、小吉が1回、凶を回避が1回。締めて一万二千円になります」
「結構するのね」
愚痴をこぼし料金を支払う文月だったがその顔はニヤニヤとしていた。
「ねえ、今日も占ってくれない?」
「はい。毎度ありがとうございます。では本日のご予定をお教え下さい」
「今日は私、宝くじを買いに行こうと思っているの。どこの売り場に行けば大吉かしら?」
「成る程。では占ってみましょう」
昨日同様、文月の顔を細目でジッと見るセールスマン。
「ここから一番近いところですと、S県S市のスーパー福副にある売り場です。迷彩服を着た男性の次に買われると“特大吉”です」
「S県!? 隣の県じゃない! その迷彩の男性っていつ頃来るの?」
「それは分かり兼ねます。ただし、今日中というのは確かです」
午前中だとしたらもう間に合わない。だけど午後に来る可能性もある。
大吉よりも上の特大吉。逃すわけにはいかない。文月は考える間もなく財布と車の鍵を手に車庫に急いだ。
「あ、奥様。お車で行かれるのは--」
セールスマンの声も届かず、文月は車を走らせた。
県境の近くまで車を走らせた時だった。
「な、なに? ちょっとどうしたの?」
あろう事に車がガス欠で動かなくなってしまったのだ。
それでも急いでスーパー福副に行く事しか頭に無い文月は、
「お願いしまーす! 乗せて下さーい!」
車を乗り捨て、ヒッチハイクをし始めた。
その必死な形相を見たのか、すぐに一台の車が停まってくれた。
「お願いします! S県S市スーパー福副まで行きたいんです!」
「そんな遠くにお買い物かね? ほっほっほ。よほど安売りでもしてるんですかな?」
文月を乗せたのは気の良さそうな老人だった。
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