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「引っ越す?いつ?」
「できるだけ早く引っ越したい。」
郁子と渚が顔を見合わせる。
「でもこの時期にすぐ見つかるかな…」
「何かあった?」
震える唇が言葉を紡ぐ。
「は…母親が、近くのファミレスにいるみたいなの。」
「っ!」
渚が私の手を握る。
「会ったの?」
「…多分あっちは気づいてないと思う…」
郁子が空のペットボトルを落とす。
「お母さん…って、リカに…虐待してたお母さん?」
「……」
「だったら早く逃げなきゃ!お母さんが乗り込んで来たらリカまた怖くて動けなくなっちゃう!」
渚が握った手に力を入れる。
「間違いないの?本当にお母さんだった?」
「多分…間違いない。」
「まさか…もうリカの居場所掴んでるなんてないよね?もしそうなら帰るの危ないよ。今日はうちに泊まって!」
「引っ越しは?」
「全部業者に依頼しちゃおう!帰るのは危険だよ。」
「部屋は?」
「とりあえず、父が住んでいた広尾のマンションに引っ越そうかな…って。」
「それがいいよ!そうしな。マンションならセキュリティとか万全だと思うし…」
「じゃあ早速業者に依頼して、名古屋のおばさん達には連絡した?」
「まだ…」
「すぐに連絡した方がいいよ。おばさん達、あの事件だって知らないんでしょ?」
「うん…」
「心配させたくない気持ちはわかるけど、ちゃんと事情を話せば安心すると思うよ。」
「そうだね…」
バイトの帰りに父が住んでいたマンションへと向かう。
見上げる高層マンション。
「すご…」
郁子が唖然とする。
「こんな高級マンションに住むの?」
「とりあえず…だけどね。」
「ここならセキュリティ万全だよ。」
「うん…。行こうか…」
エントランスを通り抜け父が住んでいた部屋へと向かう。
「リカのお父さんて何者?社長?」
「うん…まあ。」
「社長令嬢かぁ~いいなぁ~。」
「もういないけどね…」
「ごめん…」
初めて訪れる父が生活をしていた空間。
「わぁ~っ!」
高層マンションの上階。
大きな窓から見下ろす東京の夜景に二人は口を開けたまま動けなかった。
「そ、想像以上だね…」
「うん…」
綺麗に片付けられた室内を見回すと古い写真が何枚か飾ってあった。
「これ!リカ?かーわいいーっ!」
まだ生まれて間もない私が父に抱っこされてる写真、指を咥えて眠っている写真…
お父さん…ここに住めば、お父さんが守ってくれるよね?
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