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サクサクと雪を踏んでからそっと歩き出す。
一面を真っ白に染めた雪に目を細める。
真っ白で眩しくてほんの少しだけワクワクする。
そっと雪を手に取っても冷たくて落としてしまう。
それを何度も繰り返して冷たくなって真っ赤になった手をコートのポケットに突っ込む。
明日はクリスマスイブ。
昼間からべったり寄り添って歩くカップルを見かけて溜息を吐く。
「いいな…」
ポケットの中の冷たい手を握りしめた。
寒空の中、弾き語りが歌っている。
ハッとして足を止める。
この曲…cBaの曲だ。
バンドと違って1人で歌っているせいか、寂しい曲が余計に寂しく聴こえた。
顔も声質も全然違うのに、その人がカイに見えてくる。
カイも今頃アメリカでこうして歌っているのかと思うと涙が出た。
会いたくて会いたくて…泣けてくる。
大人しく待っているなんてできないよ。
通り過ぎる人々の足音。
カイが作った歌を聴きながら遠いアメリカのカイを思った。
誰かが足を止めて言った。
「下手くそ!」
その人は真っ直ぐ歌ってる人に向かっていく。
そしてギターを取り上げると突然激しく弾きだした。
私も、歌っていた人も、通り過ぎる人々もその人を見つめた。
目深にかぶった野球帽で顔が半分見えないけど…私の心臓はドクドクとスピードを上げた。
激しいギターに澄んだ声で歌い出す男に誰もが足を止めた。
ギターを弾くその手には忘れもしないタトゥー…
声をあげそうになって口を覆った。
「カイ…」
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