Bright room

6/26
前へ
/63ページ
次へ
サクサクと雪を踏んでからそっと歩き出す。 一面を真っ白に染めた雪に目を細める。 真っ白で眩しくてほんの少しだけワクワクする。 そっと雪を手に取っても冷たくて落としてしまう。 それを何度も繰り返して冷たくなって真っ赤になった手をコートのポケットに突っ込む。 明日はクリスマスイブ。 昼間からべったり寄り添って歩くカップルを見かけて溜息を吐く。 「いいな…」 ポケットの中の冷たい手を握りしめた。 寒空の中、弾き語りが歌っている。 ハッとして足を止める。 この曲…cBaの曲だ。 バンドと違って1人で歌っているせいか、寂しい曲が余計に寂しく聴こえた。 顔も声質も全然違うのに、その人がカイに見えてくる。 カイも今頃アメリカでこうして歌っているのかと思うと涙が出た。 会いたくて会いたくて…泣けてくる。 大人しく待っているなんてできないよ。 通り過ぎる人々の足音。 カイが作った歌を聴きながら遠いアメリカのカイを思った。 誰かが足を止めて言った。 「下手くそ!」 その人は真っ直ぐ歌ってる人に向かっていく。 そしてギターを取り上げると突然激しく弾きだした。 私も、歌っていた人も、通り過ぎる人々もその人を見つめた。 目深にかぶった野球帽で顔が半分見えないけど…私の心臓はドクドクとスピードを上げた。 激しいギターに澄んだ声で歌い出す男に誰もが足を止めた。 ギターを弾くその手には忘れもしないタトゥー… 声をあげそうになって口を覆った。 「カイ…」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加