57人が本棚に入れています
本棚に追加
18、因ネン
〝兄さん”
今、確かに悠馬の口からそんな言葉が出た。
柘植さんを見て、はっきりと。
その一言で感じた胸騒ぎの答えが私の中でも見つかってしまう。
漂うのは張り詰めた空気―…
盛大な拍手で幕を閉じた舞台の後の客席は、もう殆どの観客が席を立ち帰っていき、妙な静けさが残る。
「君がそんな風に僕のことを呼んでくれるとは意外だな。ただ、単なる皮肉でかもしれないが―…」
「そうですね。俺を理解してくれているようで光栄です」
「君は皮肉の塊だね。で?繭子さんとはどういう魂胆で関わっているんだい?」
「魂胆―…?もし、俺達の間に蟠りがあるとして、その事で繭子さんに近付いていると思っているのなら勘違いですよ。全くの別件です」
鋭い視線が二つ、目の前で重なり合ってる。
二人の会話に私の名前が出てきてはいるけど、とてもその間には入り込める雰囲気じゃない。
最初のコメントを投稿しよう!