18、因ネン

5/13
前へ
/40ページ
次へ
ロビーを出て、エレベーターに乗ってビルのエントランスまで歩幅の広い悠馬のエスコートで降りていく。 「タクシーを拾おう」 「でも、悠馬は仕事関係の人と一緒に来ていたんじゃ―…」 「今やっているドラマのプロデューサーと事務所の専務と一緒だったんだ。二人は先にここを出たから大丈夫」 「―…」 それから、エントランスに停まる空車のタクシーに二人で乗り込む。 悠馬が運転手さんに告げた行先は、私のマンションがある場所でここからは少し距離がある。 けれども車内で私達の間に会話はない。 悠馬の表情を確かめたい気持ちはあるけれども、横顔を見るのでさえ躊躇してしまう。 この沈黙から伝わるのは怒り。 きっと、悠馬は気分を害していると思う。 もし、 もし、あの言葉がそのままの真実だったとしたら―… 知らなかったことだとしても、よく思うはずがない。 それを表すように、マンションの前にタクシーが着くまで会話はなかった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加