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ロビーを出て、エレベーターに乗ってビルのエントランスまで歩幅の広い悠馬のエスコートで降りていく。
「タクシーを拾おう」
「でも、悠馬は仕事関係の人と一緒に来ていたんじゃ―…」
「今やっているドラマのプロデューサーと事務所の専務と一緒だったんだ。二人は先にここを出たから大丈夫」
「―…」
それから、エントランスに停まる空車のタクシーに二人で乗り込む。
悠馬が運転手さんに告げた行先は、私のマンションがある場所でここからは少し距離がある。
けれども車内で私達の間に会話はない。
悠馬の表情を確かめたい気持ちはあるけれども、横顔を見るのでさえ躊躇してしまう。
この沈黙から伝わるのは怒り。
きっと、悠馬は気分を害していると思う。
もし、
もし、あの言葉がそのままの真実だったとしたら―…
知らなかったことだとしても、よく思うはずがない。
それを表すように、マンションの前にタクシーが着くまで会話はなかった。
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