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タクシーを降りて、マンションの中に入っても一言も言葉を交わせない。
それでも、ただ私を送り届けてくれただけじゃなくて、一緒に部屋に入ってくれることは嬉しい。
悠馬と帰宅することが出来た私は、着替えるよりも先に冷蔵庫から冷たいお茶を出して、テーブルに置いた。
悠馬はグラスに手を伸ばし口にしてくれるのかと思ったけれども、ピタリと止めて引っ込めてしまう。
そして、
「―…聞かないの?」
やっと発してくれた一言は、私へのそんな問い。
私も何よりも一番、気になっている事への問い。
「私が―…聞いても構わないの……?」
生い立ちを話してくれたあの夜に、語ってくれなかったことがまだあった。
確かに、身体とお金だけで繋がっている私に簡単に言えるような話じゃない。
思わぬ状況で、それを聞いてしまったけれども、
ただ、ただ、漠然とした言葉でしか耳にしていない。
もしかしたら、
今夜、あの場所に柘植さんといなければ私の耳には入ってこなかった言葉だったのかもしれない。
そう思うと、私のような存在がそこまで深い事情を知ってしまっていいのか―…
とも迷う。
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