消したい夜

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所属人員三十名ほどのこじんまりした部屋にさっと視線を走らせた私は、自分の席がある島を見て反射的に目を伏せた。 「おはようございます」 「おはよう、江藤さん」 意識しすぎて少し素っ気ない挨拶になってしまった私とは対照的に、隣の席の彼は顔を上げて爽やかな笑顔を見せた。 私の直属の上司の東条主任だ。 この三年間、私の視線の先にはいつも彼がいた。 仕事もお洒落も、彼が私のモチベーションだった。 でもそれは昨日までの話。 今日、出勤する足を何度も止め、重いため息を何度も吐いたのは、慣れないネットカフェで一夜を明かした疲れとコンビニコスメで間に合わせたメークのせいだけじゃない。 ほんの十二時間ほど前、告白の機会すら与えてもらえず惨めに幕が引かれた、失恋の生傷のせいだ。
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