消したい夜

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「彼女が江藤さんと一度話してみたいって言うもんだから」 「わがまま言ってごめんなさい。受付って他の部署と交流がなくて寂しいんです」 二人の言葉が片耳からもう片耳へ、私の頭を通り過ぎていく。 四角テーブル席の配列は東条主任と堀内さんがあちらに並び、私はこちら側に一人だ。 どう見ても明らかだったけれど、往生際の悪い私は流れを読まない質問をした。 「あの、お二人はその、付き合っ……」 「はい」 東条主任が口を開くより先に、堀内さんが嬉しそうに答えた。 「彼から誘ってくれたんですけど、私も前から憧れてて……。ね?」 甘えるような「ね?」に東条主任が苦笑のような微笑みを浮かべて頷いた。 私が勘違いな対抗意識を燃やして“颯爽と”受付前を闊歩している横で、二人は熱い視線を交わしていたということだ。 滑稽もいいところだろう。
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