消したい夜

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悪夢のような二時間ののち、店の前でようやく二人と別れた私は駅に向かって歩き始めた。 泣くもんか。 うなだれた姿なんか、見せるもんか。 もてない負け犬女にだって、プライドはある。 二人の視界から完全に消えたと思ってもなお、私は顔を上げて歩き続けた。 店はとてもお洒落で、料理もたぶん美味しかったのだと思う。 だけど“砂を噛む”とはこのことで、私にはまったく味がわからなかった。 演技のまずさと表情を取り繕おうと、私は普段まったく飲まないワインを食事中ずっと口に運んでいた。 歩くと酔いが余計にまわり、足下の地面が波打つように揺れ始めた。 そのせいだろうか。 正面から歩いてきたカップルを避けた際に敷石に躓いてよろけ、壁に手をついた。 カップルは気づきもせず、二人の世界に浸ったまま通り過ぎていった。 ぼんやりとカップルを見送ってからため息をつき、辺りを見回した。 「あれ……」 一体どこをどう歩いたのか、駅とは違う方向に来てしまったらしい。
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