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とにかく、早くアラームを止めなければ……この男が目を覚ます前に。
男の頭上でチカチカとまたたいている携帯を掴み、そこで気づいた。
私の携帯ではない。
しかもアラームではなく着信だ。
“香子”
画面に堂々と表示された女性の名前に、余計に頭が動転する。
出る訳にもいかないけれど、かといって男を起こすなんて、絶対に無理だ。
「んー……」
もたもたしている間に、しつこく鳴り続ける呼び出し音で眠りが浅くなったらしく、男が唸った。
慌てて携帯を布団の中に突っ込んでみても、着信音は小さくならない。
……ええい!
切羽詰まった私は心の中でごめんなさいと叫びながら、電源を落としてしまった。
冷や汗をかきながらベッドに身を伏せ、息をひそめる。
するとしばらくして男は寝返りを打ち、こちらに背を向けた。
どうやらまた眠ったようだった。
助かった……。
全身で脱力する。
でも、安堵はひとときのものだった。
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