消したい夜

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財布、携帯、仕事のファイル。 靴を見つけ、バッグの中身を手探りで確かめると、忍び足で出口を目指す。 ベッドを振り返らなかったのは、万が一、男が目を開けていたらと思うと怖かったからだ。 音を立てないようにそっとドアを閉めた時、無事に逃げおおせた安堵と共に、罪悪感がチクリと胸を刺した。 地上階に降りるエレベーターに掲示してあるレストラン案内からここが有名な高級ホテルだと分かると、罪悪感はさらに増した。 部屋に戻って私の分の宿泊代を置いて来ようかと頭を過ったけれど、もうそんな勇気はない。 そもそも鍵を持っていないので、呼び鈴で男を起こさない限り部屋に入れないのだ。
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