1章 仮面を被ったホスト

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 それから、家族のためにも何とか稼がなければと思い、ユイトは 当てがあったわけでもないが、都心にやってきた。東京に来れば、 稼げると思ったから…。 職探しをしていて、気分転換にと言う事でバーで飲んでいると、最初 に入店したホストクラブのオーナーに声をかけられたのだ。 そこで、もしかしたらかなり稼げるかもしれないと考え、藁をも縋る 思いでホスト稼業を始めたのだった。  稼いだ金は多くを実家に仕送りしている。  ホストと言うと、たんまり稼いでいて蓄えられると思われがちだろう。しかし、 多くを稼ぐ『1000万円プレーヤー』と呼ばれる者がいる 一方で、売れなければさほど稼ぎが良いわけではない。 ホストだけの収入では足りず、犯罪まがいのことに走ってしまう同業者も 一握りではあるが、中にはいるのだとどこかで聞いたことがあった。  ユイト自身も、華やかな世界の中にいるとは言え、慎ましい生活 をしていた。  ホストクラブには、容姿に優れた男も多くいるから、ゲイである ユイトにとっては天国のようにも思えるかもしれない。 しかし、ユイトは心に壁を設けていた。地元で恋人に捨てられてから他人は信用しなくなっていたから、 イケメンがいようが関係ないと思っていた。体の関係も持てなくなった。  さらに、ユイトは営業時に表情や心に仮面を被り、演技をしている のだ。本来の自分とは全く違う、華やかな雰囲気を纏い、紳士的に女性を扱う 『鳳城蓮』を完璧に演じていた。周りのホストからは「俳優蓮」と 言われるほどだった。
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