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とにかく、課長の声が聞けて少しホッとした。さっきまでの俺の「どうしよう」という不安も少し解消されたような気がする。電話だからそう勘違いしているのかもしれないが。
「まあ、体は平気だ。事故は俺のせいじゃないし。ま、運悪くとばっちりを受けてしまったってところだ。それより仕事の話をしても良いか。長電話は出来ないんだ。今家か?」
「いえ、会社に来ています。ちょうど課長のデスクで、明日の資料を探していたところです」
さすがに本人から直接場所が聞けたお蔭で、探しものはすぐに見つかった。それを元に、明日の業務についてのいくつかを簡単に質問する。
課長は明日、キャンセルのできない営業があって、それに俺が行くようにというのが部長からの緊急電話だった。
その業務について俺は何も知らなかったから、ここで少しでも課長と打ち合わせができて良かった。
「じゃ、こーじ、じゃない、課長代理」
「は? 何ですかそれ?」
「俺の代理だから、代理だ。営業部課長代理、佐藤晃次!」
「それって」
肩書きなのか? 全然らしくない。
「とにかく、こーじ、明日からよろしくな。あ、そうそう、今日の出張、どうだった? 早速、リーダーシップ術が役に立ちそうだな」
「もう、課長、洒落にならないですよ」
「ははは、イテテ、笑えねえ……」
「課長!?」
やはり怪我は酷いのだろうか。いずれにしても、仕事復帰には時間がかかりそうだ。課長のいない間、しっかりしなくては。とりあえずは明日だ。
「おっと、大事なことを言い忘れるところだった。明日の夜、部長の飲み会があるからお前出てくれ。部長はああ見えてもすごく良い人だから、こーじだったらうまくやれるよ」
そうか。課長がいないということは、俺は部長と直で話す機会が増えるのか。
あの部長の近くで仕事をするのは光栄であるような、課長というクッションが無いとちょっと構えてしまいそうな……
「じゃ、何かあったら連絡頼む」
「あ、課長、お大事になさってください!」
最後、まくしたてるように話を終えた課長は、おそらく俺の最後の言葉は聞いていない。やっぱり、夜の長電話は病院じゃまずいですよね、課長。
そういえば課長は、時々部長と肩を並べて営業に出かけていた。そんなことをなんとなく思い出しながら、俺は会社を後にした。
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