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ギュイーンとエレベーターが鳴る。戦闘ロボットの内臓は、こんな音を出すのかもしれない。緊張をほぐすには、そんないらない妄想をするのが良い。
妄想ロボが「ポーン」と言って口を開けると、二桁階のフロアに到着した。部長と訪問したそこは、大手メーカーの本社ビル企画室。
訪問の目的は、うちの会社のプログラムを、メーカーのシステムに組み込んでもらうことを前提としたプレゼンと商談。うちの一押し新プログラムを売り込まなくてはならない。
「あの、部長……?」
こんなところに来るのは初めての経験だ。普段俺が回っている小売の営業とはレベルが違う。
課長がこんな大きな取引をしていたなんて知らなかった。いや、知るわけないだろ。部長が一緒に来た理由もわかった。
「じゃ、頼んだよ」
言葉の割には頼みごとをするような顔ではない。むしろ、表情が無くて、部長が今胸に何を思っているのかが全く読めない。
俺に任せて本当に大丈夫だと思っているのか。課長がやってくれればと事故を恨んではいないのだろうか。
「あとの話は俺がするから」
そうだ。段取りはできているんだ。俺がプレゼンをして、部長が商談に取り掛かる。俺は自分の仕事をきっちりとすれば良い。
「こちらにどうぞ」
俺くらいの若い奴にルームへと案内される。うちの会社の旗揚げをするように前へ進む部長について行く。
蛍光灯の光眩しい部屋にはテーブルとスクリーンが用意され、メーカーの常務や部長、次長クラスが生首を並べたように揃っていた。
ちくりとする痛みさえ感じるような視線の前に、アウェイの俺たちはさながら知らない惑星にたどり着いたタイムトラベラーのよう。
部長が挨拶もそこそこに、俺のことを惑星の住人に生贄として差し出す。
大丈夫。サルの惑星にでも到着したと思えば良い。SFもホラーも俺は得意なのだ。
大きく息を吸いむ。つい昨日の研修会で見たマコのプレゼンを思い出しながら、俺は堂々とサルの生首の前に立った。
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