4 火曜日

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* 「こーじ、良いプレゼンだったよ」 「ホントですか」  商談は、表向き無事に済んだ。返事は後でということで、部長と俺はメーカー本社ビルを後にした。部長の運転で、会社への帰途につく。 「あれで十分に納得してもらえたはずだ」 「だと良いのですけど。でもまあ、うちので行くというのがほぼ決まっている状態だったので、やりやすかったです」  部長に褒められて、ホッと胸をなでおろす。同時に、心の中で昨日のマコのレクチャーに感謝した。 「あのメーカーとの取引は結構長いからね。それでも、最後のイエスがもらえるまではシビアなんだよ」  それは俺も何度となく経験している。どこが相手の琴線に触れるのか、どこで地雷を踏むのか、最後の最後まで気が抜けない。  プレゼンを見て満足しなければ、簡単に気が変わって「やっぱりやめる」と言われることなど幾らでもある。取り引きが大きかろうが、小さかろうが、取れなくては何も残らない。 「で、今日のあれは、部長の感覚としては、イエスがもらえそうなんですか?」 「そのはずだ。あのプレゼンを見せられてはね」  ハンドルを握る部長が、思い出したように目じりにしわを引く。俺はどんな顔でプレゼンをしていたのだろう。  サルの生首に向かって、必死のドヤ顔でやったことには間違いないと思うのだけれど。  メーカーが結果を知らせてくるのは後のこと。今日俺がやったプレゼンを、課長がやるのと比べてどうだったのかは分からない。けれども今は、どうにか終わったことにホッとする。  一度会社に戻り、午後からは課長の得意先回りだ。事故のことを伝え、しばらくは自分が担当すると挨拶に行かなくてはならない。  電話で済むところもあるが、直接伺わなくてはいけない所だけは、部長からアドバイスを受けていた。  その部長は、会社に着くとすぐに専務のところへ午前の営業の報告に行ってしまった。
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