18人が本棚に入れています
本棚に追加
名まえに麻布の麻とあるから、高校に入りたての頃はよく「あさこ」と呼ばれていた。その度に「マコです!」と威勢よく言い返していた。何年前のことだろう。
「コージ、久しぶり。高校卒業以来だよね」
サンドイッチとドリンクを手に、彼女が近づいてくる。
「マコ・・・か?」
「か? ってナニよ」
感動の再会には程遠い、薄くて淡白な再会の言葉。別に良いだろう。マコだってまさかハグとかを期待していたわけでもあるまい。まずは座ろうと、フロアの一角に腰を下ろす。
「コージ、食べないの? サンドイッチ取ってきてあげようか」
「いいんだ、俺はジュースだけで」
マコは相変わらずはきはきしていて世話好きのようだ。高校時代は大勢の部員を抱えるサッカー部の名物マネージャーだった。
クラスでは学級委員を務め、三年のときの体育祭・文化祭も実行委員長として見事に場を仕切っていた。
俺は一応、クラスでは相方だったけれども、マコの横では名前だけのおまけようなものだったな。
遠い青春時代だけれども、何となく思い出すとそれなりに懐かしい。
「こーじ、仕事何やってるの?」
「IT関係で営業。SEとかじゃないから」
マコの勢いある性格は、高校時代とそれほど変わらないようだ。けれども、見た目は少し変わったかな。
高校の頃より髪が長く、少しほっそりした様に思う。化粧をした顔は初めて見た。若さはじけるすっぴんで駆け回っていた女の子が、今は大人のケアを施した肌を見せる。クルクルと回転良く動く大きな瞳だけは全く変わらない。
「マコは?」
「あたしは公務員。財務省にいるの」
「財務省? へえ、国家公務員なんだ」
高校時代は、私服と言えばジーンズ姿のマコしか見たことがなかった。けれども、今日はスーツに細身のスカートを颯爽と着こなしている。ヒールをコツコツと鳴らして歩く姿は、女性なのにやり手のキャリアのようだ。
まあ、俺の方も、一応はネクタイ姿なのだけれども、昨日のこともあって、くたびれているように見えるかもしれない。マコの目には、仕事疲れと映っていてほしい。
二人で高校時代の思い出話や今の仕事の話などをしていたら、あっという間に昼休みは終了して、午後のセッションの時間となった。
「コージ、何のセッションに出るの?」
最初のコメントを投稿しよう!