5 水曜日

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5 水曜日

 水曜日。  二日酔い。根性で出勤。  渡辺部長は欠勤。まさか専務につぶされたのだろうか。長谷川専務、あの人も相当飲む人だ。鬼の親分で十分通じる。  専務は今日、出勤しているのだろうか。いや、そんなことはどうでも良い。仕事仕事。  事務処理が山になっていた。昨日のメーカーの営業報告を書かなくてはならなかったし、月曜日の出張の報告もまだ書いていなかった。  課長のデスクに来ている他からの報告書をまとめるのも今は俺の仕事だ。俺は課長の事務処理と自分の仕事を交互にやりつつ、課長のデスクと自分のデスクを行ったり来たりしていた。  プルルル……  課長のデスクの外線だ。  電話を取るとものすごい勢いで怒鳴られた。 『上の者を呼び出せ!!』  クレームだ。怒り指数は100のうちの100。唾まで飛ばされてくるようなボリュームに受話器から耳を離す。とにかく嵐が去るまで聞くことしかできない。  会社にはクレーム担当がいない。自分に来たクレームは自分で受け、課長に報告するのがマニュアルだ。しかし、今課長は不在。 「……なので、よろしければ私が承ります」  どうやら最近中途採用で入った新人君が何かをやったらしい。指導していたのが課長だった。 『とにかく、今日のうちにもう一度うちまで来い!』 「大変申し訳ございません。本日2時までに必ず伺わせていただきます」  電話を切って、新人君を呼んだ。 「水谷君、クレームだ。ちょっと良いかな」  俺に呼ばれた新人君が、血相を変えて腰を上げた。この世の終わりのような顔で寄ってくる。  うちの会社はサービスの一環として、プログラムの出張説明をしている。電話は先週、リクエストを受けて水谷が行ったところからのクレームだった。水谷は新人だから、訪問は課長と行っている。  クレームはデータの消失。実は、不具合を見つけた先方が会社に連絡を取ってきて、水谷が一人で訪問して対処した、というのが昨日の火曜日。  普通、新人が営業訪問をするときには上司がついて行く。けれどもこの日は、課長が休暇に入り、部長と俺は朝から例の商談に出かけ、他の者も自分の仕事が手一杯でついていってやれる者がいなかった。 「一日待ってもらえば良かったのに」 「迅速な対応がサービスと思いまして」    その言葉に、課長の教育が垣間見える。
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