3 月曜日

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3 月曜日

 月曜日。  時間ギリギリだったけれども、遅刻せずに会場に到着する。ゲストスピーカーの講演により、そのつまらない研修会が始まった。  夕べ飲み干したスコッチがきつかったのか、むかむかと気分が悪い。それでなくても、何だか小難しい講演内容など、頭の片隅にも入ってこない。  途中でどうしても我慢ができなくなって席を立った。  トイレにこもってひとしきり吐いた後、顔を洗って鏡を見る。顔色は悪く、窪んだ目の色は陰り、表情は垂れて情けない。  けれども、夕べ無駄に溜め込んだアルコールを吐き出したおかげで、少しだけ気分がすっきりした。  そうさ。 「ふられたくらいで、落ち込んでられっか」  たとえ気休めでも、鏡の中の自分にそう言ってやる。会場に戻って席に着くと、とりあえず形だけでもとメモを取り始めた。  時々ぶり返すむかつきに耐え、何とか午前のプログラムを終了。何も学ぶことなく昼休みとなった。  午後は小グループに分かれてのワークショップ。会社から言われて前もって申し込んであるセッションに参加する。まあ、この研修も仕事の一環。参加することに意義あり。  会場には、サンドイッチやら手巻き寿司やらのフィンガーフードタイプの食事が用意されていた。けれども、俺は全く食欲がない。オレンジジュースだけに手を伸ばす。  立食はちょっと苦手。どこかに座りたい。ジュースのグラスを手に、尾びれの広い金魚のようにゆらゆらと歩き出す。 「コージ!」  その呼び捨てが、俺の尾びれにブレーキをかけた。誰?  声のした方に、顎を上げながら振り向く。目に入ったのは、ドリンクの列に並んでいた一人の女性。俺を見ながらニコニコと手を振っている。  会社関係でもなんでもないこの研修会に、知り合いなどいない。けれども、目を凝らしてよく見ると、何となくその顔に見覚えが。 「コージ、ちょっとそこで待ってて。ドリンク取ってくるから」  そんなふうに彼女が大きな声で名前まで公表するから、まわりの注目を集めてしまった。大勢からの「お前がコージか」みたいな視線が交わせずに金魚目が泳ぐ。  確か彼女は、同じ高校にいた落合麻子(おちあいまこ)。高一と高三の時、同じクラスだった。
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