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「手空きだっていうから、声かけたんだ。ホントは裕ちゃんに頼みたかったんだけどなあ、貴重なデートの時間を奪っちゃ悪いだろ、たからさ。たまたま近くにいたから」
「たまたまって、センセ、そりゃないでしょー」
あははと笑う笑顔は無邪気で、男にしておくのはもったいない。
「慎一郎が高等部の頃から面倒みてたって言うだけあって、ヘタな助手よりよほど優秀だろ」
「ええ、数式のチェックですもんね。僕も勉強になりました」
はい、と言いながらファイルを手渡した。
「ほとんど手を入れるところはなかったです。気になったところに付箋と赤ペン、付けときました」
「助かる。ありがとうな」
「いいえー」と答える彼は屈託がない。
「慎一郎んとこは、出来がいい生徒が集まってるよな。師匠はこーんな奴なのに、素晴らしいことじゃないか」
ホントに放っておいてほしい。
にこにこと笑顔がまぶしい彼、増沢要(ますざわ よう)は慎一郎の研究室に在籍する一人だ。要は高校生だった頃、特待生として大学にある慎一郎のゼミへの出入りが許された。要は武と血の繋がりはないが縁戚関係にある。世間は狭い。
白鳳は、親子や孫が同校出身者という者が珍しくない。幼少の頃より大学までの期間を持ち上がりで一緒に成長していくのだから、同期の結束は自ずと上がる。当然、同窓生というだけで年代の垣根をあっさり越える。下手なコネクションより強力な人脈が保障されている。
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