61人が本棚に入れています
本棚に追加
――コイツと一緒に、海を見たかっただけ……気分転換になるだろうなと思ったから。
「あっ、小林さん。お疲れ様です」
先に来ていた後輩は顔だけ振り向いて、嬉しそうに微笑んできた。
もうすぐ日没を迎えようとしている、国道沿いにある某浜辺。デートスポットにもなっている場所なので、平日ながらカップルがぽつぽつといらっしゃる。
「おー、お疲れ。外回りは順調だったか?」
「それなりに、まあ。……てか、どうしてここを待ち合わせ場所にしたんですか? 男同士で来てるの俺たちだけって、ちょっと――」
「どうしても海を見ながら、煙草を吸いたくてな。ひとりぼっちは寂しいから、お前を呼んだだけ」
眉をひそめ、辺りをキョロキョロする挙動不審な後輩に、笑いながら理由を告げてやった。
「げーっ。それだけのために呼ばれたなんて……」
他にも何か文句を言い続けるのをしっかり無視して、上着のポケットから煙草を取り出し、口にくわえた。
「……はい」
隣から火の点いたライターが、そっと差し出される。海風に消えそうなそれを手で包み込み、顔を寄せて煙草に火を点けた。
「いつも気が利くな、ありがとよ」
「別に。……小林さんには世話になってるから」
目の前で沈む夕日を浴びているせいか、後輩の頬を赤く染めているのを横目で見た。
最初のコメントを投稿しよう!