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蘭たちのワンボックスカーも電力だけで走れる。かっこは悪いが、天井にソーラー発電機を備えている。こういう時代には重宝した。
おそらく、今でも走る自動車を有してるコミューンは、薬屋と疫神教団をのぞけば、不二村だけだ。
猛が部下たちに指図している。
そのあいだに、こっそり背後から忍びよる。蘭はワンボックスカーのトランクスペースに、もぐりこんだ。
以前は、ここに数日ぶんの保存食や日用品、またアルバムなどの思い出の品をつんでいた。いつでも京都を出て、出雲へ迎えるように。
今は弾薬やロープ、ワイヤー、工具、予備のバッテリーなどが、乱雑に置かれている。
(僕らの車に弾薬か。以前は、この車で、九州や東北や、いろんなところに旅行に行った。キャンプにも行った。キャンプには三村くんや、赤城さん、馬淵さんも呼んで……楽しかったな)
赤城は蘭たちが村についた翌日、電話で呼びよせた。今でも生きて村にいる。
もとより、赤城は蘭に心酔していたから、誘うのは簡単だった。家族も仕事も何もかも捨てて、僕のところへ来てくださいと言うだけでよかった。
「わかった。君が、そんなふうに言うのには、よほどのわけがあると思う。今すぐ、そこに行くよ」
そう言って、かけつけてきた。
赤城は年商数億十億のファッションブランドのオーナーだった。仕事を捨ててくるのは、そうとうの決意がいったはずだ。
けれど、来てくれた。
「貯金通帳、持ってきたんだ」
「悪かった?」
「これ、もうすぐ紙クズになるんですよ。まだ四、五日は猶予があるから、僕らに使わせてもらっていいですか?
あなたに必要なものも急いで買いそろえます。水魚なら有効に使ってくれる。納入が、まにあえばいいけど」
このとき、村に品物を届けにきて、幸運にも村の一員になった運送業者もいる。
赤城は今、蘭の専属デザイナーとして、第二の人生を楽しんでいる。
だが、三村は家族と残る道をえらんだ。
三村は猛の念写能力を知っていた。
蘭たちの言葉の裏には、重大な意味があると理解したうえで、家族と死ぬ覚悟をしたのだ。
「さそってくれて、ありがとな。けど、おれ、オトンやオカン、ほっとかれへんわ。おまえらとおれて、ごっつ楽しかったで。もし、また会うことができたら、遊びに行こな」
「そうですね。いつかまた、きっと……」
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