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もしかして、外の世界は、蘭が思ってるより、はるかに危険なんだろうか。
「……ごめんなさい。でも、このごろ、なんとなく不安なんです。どうしてなのか、自分でも、わからないけど」
猛は苦い顔をした。
「もういいよ。でも、おまえの身の安全のためだからな。絶対、外に出るなよ?」
「わかりました。これ以上、ワガママ言いません」
ワンボックスカーは、ふたたび動きだした。
乗り物に乗るのも二十年ぶりだ。
これまでの二十年間、乗り物といえば、村祭のとき、蘭を乗せて村じゅうを歩く、神輿くらいだった。
あるいは、猛のこぐ自転車の荷台に乗せてもらうとき。あぜ道はガタガタして、けっこうスリリング。
(あれ? でも……あれは、いつだったっけ?)
ふと、蘭の脳裏をふしぎな映像がよぎった。
いつだったかは忘れたが、猛と二人、馬に乗って草原を走ったような気がする。
馬なんて、蘭は乗れないし、それに、あの風景は不二村のなかじゃなかった。もっと広い一面の草原だ。
(葦原のなかつ国。古事記にでも出てきそうな景色だったな。人工物なんて、まるでなくて)
蘭は窓の外をながれる景色を見ながら思索にふけった。
山間部から斐伊川ぞいに平地に出る。
かつて、出雲の穀倉地帯だった斐川平野だ。
以前、蘭が見たときは美しい水田だった。今はススキやアザミや、セイタカアワダチソウが、見渡すかぎり、地面をおおいつくしていた。
「稲は水びたしじゃないと育たないから、自生しにくいんですね。このへんは湿地ってわけじゃないし」
人家も、あちこち半壊だ。人の住んでるようすはない。枯れ木だと思ったのは、電柱のなれのはてだ。家畜や人間の死骸らしきものも、ポツポツ見える。
むなしくなるほどの荒廃。
ここにも、かつては文明が通っていたのだ。
これを見ると、不二村が最後のユートピアと言われるのも実感できた。
わざわざ、村を出てきて、見るほどのものは何もない。今現在、日本中で、もっとも美しいものは、すべて不二村のなかに存在する。
トラックを従えたワンボックスカーは、北へ向かう。アスファルトはヒビ割れているが、かろうじて車の走行をゆるしている。
製塩が目的だから、海に出なければならない。平原をつっきり、ふたたび山をこえたさきに、日本海が広がっている。
海の色は、パンデミック前と同じだった。
秋晴れの空のもと、涼しげに、きらめいてる。
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