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「僕に変なことしたんじゃないでしょうね? 性的なこととか」
「しちょらん。しちょらん。そぎゃん(そんな)ことは、しちょらん」
「ほんとに? だったら、なんで、そんなに赤くなるんです?」
「え? 赤くなっちょうかいね?」
「ゆでダコみたい」
「……用足してくうわ。ちょんぼ(ちょっと)待っとって」
池野は車外へ出ていく。逃げる気だ。
蘭は追った。そこは前から、どうしても気になっていたところだったのだ。
車を出て、池野の行った岩かげに向かう。
そのときだ。
「女だ」
「女だ」
「なんて、きれいな女だ」
まわりの木かげから、わらわらと人影が現れる。またたくまに、かこまれた。
薄汚れた男たち。着てるものは衣服とは呼べない。布の残骸だ。髪もヒゲも伸びほうだい。異臭が鼻をつく。長いあいだ、風呂にも入ってないのだろう。
(原始人みたい……)
蘭はデニムのウエストに手をのばした。銃をさぐる。だが、そこに銃はなかった。
(しまったーー車のなかだ)
あれほど油断するなと猛に言われたのに。
毎日、ストーカーに神経をとがらせてたころの蘭なら、ありえない失態だ。
「助けてーー」
池野を呼ぼうとした。その口をふさがれる。
蘭は数人がかりで抱えられ、男たちに、つれられていった。
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