二章 海と星、金魚

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松林につれこまれた蘭は、四方から手足をおさえられた。衣服をはがされていく。 黒豹のようなカジュアルシャツをめくりあげた男たちは、一瞬、うろたえる。 「こいつ……男だ」 そこで解放されるかと思いきや、ま、いっか的な空気が流れる。蘭のベルトに手をかけ、ジーパンをぬがそうとする。 「やめろ! くそッ、殺すーーぶっ殺す!」 こんなときは、罵声に本性が露呈する。 蘭はイノシシどころか、本性はグリズリーだ。 だが、いかんせん多勢に無勢。こう大勢で押さえつけられては、身動きがとれない。 悔しさのあまり、涙がこぼれる。 歯を食いしばって、ムダな抵抗を続ける。 するとーー 「蘭! 伏せろッ」 伏せろも何も、地面に押さえこまれてるが。まあ、かけ声みたいなものだ。 ハッとして、男たちが体を起こしたとたん、一瞬のうちに、二、三人の頭が破裂した。この威力はマグナムだ。 とびちる血を、蘭は目をとじて、さけた。それでも、生あたたかいものが顔にかかった。 続いて、「わあッ」と悲鳴があがる。 周囲で人の争う気配。 蘭が目をあけると、血刀をさげた猛が、逃げまどう男たちを一刀両断していた。 「こいつはオレの女だ! 手ェ出すなッ!」 ものすごい大ウソだ。でも、男たちは、ふるえあがった。 「お助けください。疫神さま」 叫びながら去っていく。 なるほど。男たちには、猛が疫神に見えるのか。 あえて、猛は間違いを正さない。 血刀を死者の衣服で、ぬぐうと、さやにおさめた。 「よかった。未遂だった」 蘭の上で絶命してる首なし男をどかし、手をさしのべてくる。 「だから言ったろ。容赦なく、やれって」 蘭は猛の手をふりはらい、自力で立ちあがる。さげられたジッパーをあげ、ベルトを直す。 が、そこで強がりは底をついた。涙がこぼれてくる。蘭は猛に、すがりついた。 「おまえでも、怖いとか思うんだ」 「違う。これは悔し涙です。僕が自分だけ手を汚さず、安穏と生きてこられたのは、みんなが……あなたが、僕を守ってくれてたからなんだって。今の今まで、気づかなかった。それが、くやしい」 猛は笑う。とても、嬉しそうに。 「水くさいこと言うなよ」 「平和ボケしちゃってて、ごめんなさい」 「いいって。それよか、顔、洗おう」 「そうですね。こいつらの血と体臭がしみついちゃって。自分が生臭い」
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