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気に食わないが、ここはガマンだ。魚は食べたい。
老人が言う。
「網は、そのへんで拾ええじゃないか。いいとこだけ、よって(選んで)つぎあわせれば、なんとか使ええだないか。だども、船がないことには、漁に行かれんが」
「なるほどね。船じたいは、修理できると思う。こっちには船大工もいるし、エンジンや機器類の整備士もいる。問題は動力だろ? 燃料がないんだ」
こっくりと、老人は、うなずいた。老人のように見えるが、栄養失調で老けて見えるだけかもしれない。
蘭は猛に、たずねた。
「どうするんですか? うちだって、ガソリンや重油は無限にあるわけじゃないですよ?」
そういうヤリクリをしてるのは、水魚と、龍吾の息子だ。くわしくは蘭も知らない。
だが、燃料を保管してるシェルターの地下貯蔵庫の広さを考えれば、よそへ、わけ与える余裕はないはずだ。
猛はニヤっと、悪魔っぽく笑った。考えこむときに、口元に、にぎりこぶしをあてるクセは、今も昔も変わらない。
「ガソリンね。そういうのは、薬屋が占有してるはずだよな。その点は、もうちょい熟考してみるとして。
とりあえず、一本釣りで、なんとかしてくれ。天日干しにしといてくれれば、おれたちのほうから、とりに来る。
あとは塩田だよな。おれたちも塩田があれば、じかに海水から塩作るより、ずっと楽になる。最後の精製は、おれたちがしてもいい。
とれた塩は、あんたたちと折半しよう。あんたたちも塩があれば便利だろ? 魚の保存にも使えるし」
「……あんたたち、なんで、そこまでしてくれるんだ? うまいこと言って、おれたちをこき使ったあと、皆殺しにする気じゃないか? どうも、こっちに条件がよすぎる」と、国中。
「最初は先行投資だよ。そのうち、ギブアンドテイクでバランスをとりたい。それでも信用できないか?」
「あんた、疫神だろ? バックに疫神教団がついてるんじゃないか?」
「おれはキャリアだが、疫神じゃない。イケニエをさしだせなんて言わないよ」
「どうだかな。あんだけ仲間、殺されてるからなあ」
蘭は立ちあがった。
「言っとくけど、さっき犯されてたら、今ごろ、おまえら全員、ぶっ殺してるから」
その瞬間、塩作りの青年たちが、手をとめて国中たちをにらんだ。おれたちの御子さまに、なんてことしやがると、その目が言っている。
険悪なムード。
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