二章 海と星、金魚

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猛が手をあげて、制する。 「そっちが先に手をだしてきたんだ。痛みわけってことにしてくれよ。 おれは仲間が傷つけられることは絶対に許さない。だが、意味のない殺生はしない。 あんたたちと争う理由は、もうない。だから、取引を持ちかけた。そうだろ?」 国中たちは、仲間内で顔を見あわせる。 「まあ、あんたたちがイヤなら、おれたちは、ほかの漁村で生存者をさがすよ。そして同じ話を持ちかける。それだけのことさ」と言って、猛は背後をふりかえる。 「そろそろ、できたか?」 「はい。隊長。バケツ二杯です」 「じゃあ、帰るか。片づけてくれ」 国中たちは、あわてた。 しょせん、彼らは、その日暮らしだ。今日死ぬか、明日死ぬかもわからない。はなから断れるはずがない。ましてや、数年ぶりの米のあとでは。 「わかった。わかった。とりあえず、信用する。なあ、みんな、いいよな?」 あとは細かいレートや交換日を決める。 国中が元証券マンだから、レートの話は得意だ。 パンデミック前の品物の平均的価値基準をグラム算出して、等価で交換することになった。 話が決まると、男たちは去っていった。国中だけが残る。 青年団が後片付けしてるあいだ、よもやま話が続いた。 「最近、このあたりで、疫神か薬屋を見たか?」 猛の問いに、国中は首をふる。 「ここは、搾取できるもん残ってない、弱小コミューンだからな。というか、今日までコミューンですらなかった。 近場にいる弱い連中が、なんとなく、つかず離れず、暮らしてただけさ」 「どっか、よそのコミューンに入ろうとはしなかったのか?」 「いや、その……」 国中は言葉をにごす。 猛は言った。 「あんたたちが、キャリアだから?」 国中は、驚がくする。 「なんで、わかった? おれたち、外から見えるとこに変形はないのに」 「カンタンなことさ。おれがキャリアだと言っても、誰も逃げだそうとしなかった。あんたたちがノンキャリなら、あの瞬間に狂ったように逃げまどってるよ」 「たしかに」 国中は苦く笑う。 「イヤじゃないのか? あんたはともかく、あんたの仲間や、この人は? おれたちが獲った魚だぞ。ヘルって空気感染や飛沫感染もするんだろ? あと、セックスでも、うつるって」 蘭は皮肉った。 「へえ。じゃあ、さっき、あんた、僕を殺すつもりだったんだ。ヘルに感染させて。 まあ、死なないけどね。僕は」
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