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猛が手をあげて、制する。
「そっちが先に手をだしてきたんだ。痛みわけってことにしてくれよ。
おれは仲間が傷つけられることは絶対に許さない。だが、意味のない殺生はしない。
あんたたちと争う理由は、もうない。だから、取引を持ちかけた。そうだろ?」
国中たちは、仲間内で顔を見あわせる。
「まあ、あんたたちがイヤなら、おれたちは、ほかの漁村で生存者をさがすよ。そして同じ話を持ちかける。それだけのことさ」と言って、猛は背後をふりかえる。
「そろそろ、できたか?」
「はい。隊長。バケツ二杯です」
「じゃあ、帰るか。片づけてくれ」
国中たちは、あわてた。
しょせん、彼らは、その日暮らしだ。今日死ぬか、明日死ぬかもわからない。はなから断れるはずがない。ましてや、数年ぶりの米のあとでは。
「わかった。わかった。とりあえず、信用する。なあ、みんな、いいよな?」
あとは細かいレートや交換日を決める。
国中が元証券マンだから、レートの話は得意だ。
パンデミック前の品物の平均的価値基準をグラム算出して、等価で交換することになった。
話が決まると、男たちは去っていった。国中だけが残る。
青年団が後片付けしてるあいだ、よもやま話が続いた。
「最近、このあたりで、疫神か薬屋を見たか?」
猛の問いに、国中は首をふる。
「ここは、搾取できるもん残ってない、弱小コミューンだからな。というか、今日までコミューンですらなかった。
近場にいる弱い連中が、なんとなく、つかず離れず、暮らしてただけさ」
「どっか、よそのコミューンに入ろうとはしなかったのか?」
「いや、その……」
国中は言葉をにごす。
猛は言った。
「あんたたちが、キャリアだから?」
国中は、驚がくする。
「なんで、わかった? おれたち、外から見えるとこに変形はないのに」
「カンタンなことさ。おれがキャリアだと言っても、誰も逃げだそうとしなかった。あんたたちがノンキャリなら、あの瞬間に狂ったように逃げまどってるよ」
「たしかに」
国中は苦く笑う。
「イヤじゃないのか? あんたはともかく、あんたの仲間や、この人は? おれたちが獲った魚だぞ。ヘルって空気感染や飛沫感染もするんだろ? あと、セックスでも、うつるって」
蘭は皮肉った。
「へえ。じゃあ、さっき、あんた、僕を殺すつもりだったんだ。ヘルに感染させて。
まあ、死なないけどね。僕は」
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