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「えっ?」
おどろいてる国中に、猛が説明する。
「おれたちも全員、キャリアなんだよ。ここにいる、みんなも。おれたちの帰りを待ってるコミューンの仲間も。みんな」
キャリアというより、生まれつきの耐性だが、似たようなものだ。
とつぜん、国中は泣きだした。
「そんな! こんなキレイな人が、キャリア……よかった。よかったな。そのキレイな顔が、くずれたりしなくて」
国中は各地を放浪したらしい。ヘルで死んでいく人の凄惨な実情を、いやというほど見てきたのかもしれない。
犯されそうになったが、心からの悪人ではないようだ。
「それは、どうも」
蘭が笑いかけると、国中は真っ赤になった。
「女神みたいだな。あんた、神さまだ」
たしかに、神とは呼ばれている。
「僕自身が、すごいわけじゃないけどね。僕は運がよかっただけ」
それとも、運が悪かったのか?
いやおうなく不老不死にされ、自分の意思とは関係なく、生き続けなければならない。
今はまだ、猛や水魚がいてくれるからいい。でも、もし、彼らが死んでしまったら……?
「そういえば、あいつもキャリアだったのかな」
ぽつりと、国中が、つぶやいた。
「ちょっと前に、変なやつが浜に打ちあげられたんだ。
最初、死体かと思った。全身、めった刺しにされてた。腹がえぐられ、顔なんか、なくなってた。
ビックリして腰ぬかしてたら、なんと、立ちあがって歩きだしたんだよ。なんだったんだろうな。あれ」
不気味な顔なし男。パンデミック前なら、ホラーだ。
「きっと、変形期が終わった直後だったんだろうな」と、猛。
「南に向かっていったよ。ふらふらして、目も見えてないみたいだった。目玉もないもんな。とうぜんか。
どうしてるかね。今ごろ。生きてりゃいいが。いや、いっそ死んでたほうがマシなのかな。命があっても、あれじゃ……」
その話を聞いたあと、蘭は変な気持ちだった。なんとなく、現実が、夢か、うつつか、わからない感じ。
いつか、その顔なしをどこかで見ただろうか?
いや、見たのではない。会ってはならない不吉なものだという気がする。
その男に会うと、蘭は大切な何かを失ってしまいそうな……。
でも、そんなことあるわけない。
蘭は御子だが、予言者なわけじゃない。
未来のことなど、わかるわけないじゃないか。
(これは夢。幻。早く目をさまして。もどらなくちゃ。かーくんや猛さんが待ってる、あの部屋へ)
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