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でも、目ざめない。
蘭はワンボックスカーにゆられて、山奥の村へ帰っていく。
車中で、猛に、こってり、お説教された。
「まったく。外の連中は二十年も、まともに女、見てないんだよ。おまえみたいなやつが一人で、ほっつき歩いてたら、そりゃ襲ってくれって言ってるも同然だ。
わかったか? 今度から、ちゃんと、おれの言うことを聞く」
池野が、かばってくれる。
「猛さん。蘭さんを許してあげてください。わが最初に車から出たけん。悪いのは、わだに(私です)」
猛は納得しない。
「こいつが銃、携行してたら、はなから危険なめにあってなかったんだ。
あのとき、おれが、たまたま気づかなかったら、どうしてたんだ?」
「……すいません」
「心配させないでくれよ」
たしかに、未遂じゃなかったら、今ごろ、半狂乱になって、銃をぶっ放してたかもしれない。
あんなめにあうのは二度とゴメンだが、心配してくれる猛の気持ちは嬉しい。
村に帰ると、水魚にも泣きつかれた。
「勝手に村をぬけだすなんて。私の心臓を止める気ですか?」
「ごめんね。水魚」
「それに、この匂い。鉄サビと塩からいような……髪もベトベト……」
「それは、燻製ニシンにされたから」
「ニシン?」
水魚に、にらまれ、猛が事情を白状する。
今度は猛が水魚に説教をくらった。
「猛さん。あなたがついてて、御子をそんな危険にあわせるなんて、何してるんですか。塩なんて後日でいいから、見つけたときに、すぐや引き返すべきだったんです」
「すまん……」
肩を小さくして、子どもみたいに、しかられてる。
蘭は猛と、こっそり笑いあった。
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