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鉛のカベをひっぱってるみたいだ。全身、汗だくになる。手のひらの皮がむけた。またたくまに治るが。
ようやく網が浜にあがった。
ふらふらになって、すわりこんでしまう。
でも、気分は味わえた。
男たちは歓喜の声をあげた。
猛が両手に魚を持って、かけてくる。
「蘭! 念願の甘鯛だぞ。こっちはカレイに太刀魚だ」
「好き。好き。みんな好き!」
興奮して、蘭は叫んだ。
まわりの男たちが何を勘違いしたのか、赤くなる。
「ーーって、お魚のことですけど。まあいいや。今日は。みなさんのことも好き」
手近に立っていた国中にキスをした。もちろん、頬に。
「ああっ! もう死んでもいい!」
「蘭さーん……国さんばっか、ズルイがね」
「バカ。蘭。こいつら、歯止めがきかなくなるぞ。ほら、旗だ! 大漁旗ふれ!」
田村が、まさかの『大漁』のロゴ入りTシャツをきていた。猛は、それをむりやり、ぬがせ、木の枝にむすぶ。
蘭は、それをふった。
勝鬨のような声をだし、みんな、このうえなく楽しそうだ。
漁の成功より、この瞬間の歓喜を、みんなと共有できることが、なによりも嬉しい。
嬉しいのに、涙が、すべりおちる。
この瞬間は二度と来ないのだと、ふいに思って。
「なに泣いてんだよ。蘭」
「感激しちゃって。みんなと力をあわせて、一つのことを達成するって、こんなに気持ちいいんですね。僕は、知らなかった」
こうやって、共同体になっていくんだと考えた。不二村の青年たちは、もちろんだが、国中たちも、もう仲間だ。
「さあ、食おう。刺身に潮汁。塩焼き。唐揚げもいいな」
多くは生かしたまま、ポリバケツに入れられた。村に持ち帰るためだ。
そのうえ、国中たちのとりぶんを残しても、まだ魚肉パーティーをするのに、じゅうぶんな量があった。大釜で米も炊かれ、村の地酒もふるまわれた。
みんな、我を忘れるほど飲み食いした。
宴は日が暮れる直前まで続いた。
「今日は楽しかったよ。一生、忘れないだろうな。いい思い出をありがとう」
手をふる国中たちに見送られて、村に帰った。村でも、ナベやバケツを手にならぶ村民に魚がくばられた。ここでも、お祭りさわぎだ。
楽しい気分を満喫して、蘭は幸福な気持ちで眠りについた。
だから、夢にも思わなかった。まさか、あんなことになるなんて……。
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