二章 海と星、金魚

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次の交換日、蘭はムリを言って、また、ついていった。 いつもなら、猛たちの車が来ると、国中たちは、とびだしてきて出迎える。以前の公民館が、国中たちの住処だ。 なのに、その日は誰も出てこない。 「どうしたのかな。今日は静かですね。この前と違いすぎる」 蘭はワンボックスカーのドアをあけようとした。猛が、とどめる。 「待て。ようすが、おかしい。安藤、池野。おまえたちは、ここで待機。蘭の護衛だ。もしものときには、おれのことはいいから、すぐ逃げろよ」 「えっ、ちょっと、猛さんーー」 蘭が抗議したときには、猛はもう車外に出ていた。日本刀片手に歩いていく。 ようやく、公民館から人が出てきた。 だが、国中たちではない。蘭の知らない男たちだ。 腰に思い思い、刃物をさげている。なかには、大きな斧やボーガンを持つ者も。 総勢三十名あまり。こっちのメンバーより多い。 三列横隊で、こっちを迎えるようすは、統制のとれたコミューンだということを示していた。 猛が第一声をはなつ。 「あんたたちは?」 「初めまして。おれは、こいつらを束ねてるヘッドの渋沢だ。そっちのヘッドと話したい」 「おれが隊長だ」と、猛は答える。 まあ、ウソじゃない。蘭は戦闘員じゃないから。 「では、取引しよう。あんたたちが、以前、ここに住んでたやつらと交わしてた取引を、今度は、おれたちとやらないか? おれたちは魚や塩を提供し、あんたたちが米や野菜で買う。レートは以前どおりでいい」 そう言って、渋沢は国中が作ったレート表をとりだした。 それは公民館に貼られていた古いポスターだ。裏にインクのかすれたマジックで、表が書かれている。国中が書いたレート表……。 しばし無言で、猛は、それをながめた。 猛の無言を、渋沢は思案中ととらえたようだ。 「おれたちは、あんたたちがしてることをウワサに聞いて、やってきた。争う気はない。以前のやつらより、おれたちのほうが人数も多い。あんたたちにとっても効率的だろ? なんなら、信用を得るまで人質をだしてもいい。人質は、おれの息子だ」 渋沢の合図で、一人の少年が前に出てきた。まだ十二、三だ。彼らが、せいいっぱい、誠意を見せようとしてることは伝わった。 でも、さっきから蘭は、腹の底に重い鉛を飲んだような気分だ。ずっと、気になってることがある。 すると、猛が口をひらいた。 「国中のおっさんたちは?」
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