二章 海と星、金魚

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そう。国中たちは、どうしたんだろう? いっしょに漁をして、笑いあった仲間は? 古い友人のように、酔っぱらって肩をくんだ男たちは? 渋沢は言った。 「やつらはキャリアだった。全員、処分した。死体は砂浜で焼いた」 蘭はショックのあまり、シートのなかに、くずれおちた。 (ウソだ……この前、別れたときは、あんなに元気に笑ってたのに) 国中たちの声が耳元で聞こえるような気さえする。 ーー蘭さん。わあにもチューしてごしなはい。国さんばっか、ズルイがね。 ーーそげだ。そげだ。口とは言わんけん。ほっぺでいいけん。 (こんなことなら、もったいぶらなきゃよかった。キスくらい。あきるほど、してやれば……) でも、もう遅い。 彼らは帰ってこない。 シートのなかで、蘭は泣いた。 渋沢の声がした。 「勘違いしないでくれ。おれたちは自警のために武装はしてる。が、ならず者じゃない。最初は話しあいで、合流させてもらうつもりだった。 だが、やつらがキャリアだとわかった以上、ああするよりなかった。 あんたもキャリアのようだが、取引が成立するなら、何もしない。 あんたたちも過去のことより、これからを考えたほうが特だろ? おれたちと手を組もう。冷静に考えてくれ」 冷静に損得だけ考えるなら、断然、渋沢たちと組んだほうがいい。 メンバーが変わっただけだ。内容は変わらないと割りきればいい。 猛は合理的だ。なんて答えるだろう。 渋沢を許すのだろうか? いや、それ以前に、こっちは人数で負けてる。物別れになって争うのは危険だ。 しかし、猛は言った。 「やつらは、仲間だった」 静かな声。 でも、蘭にはわかる。 その声に秘められた、猛の強い怒りが。 蘭はワンボックスカーから、とびだした。 「猛さん! ダメだ」 そのときには、すでに、猛は刀をぬいていた。白刃一閃。血がしぶき、渋沢が倒れる。向こうの男たちが叫び、いっせいに、猛に襲いかかる。 「猛さんッ!」 ムチャだ。いくら猛が強くたって、一対三十。分が悪いなんてもんじゃない。 「蘭さん、さがっちょって!」 池野が蘭の手をとり、車内に引き戻そうとする。 「いやだッーー猛さん! 猛さん!」 ひとかたまりになって、争う男たち。 群衆のまんなかに、かろうじて、猛の姿が見え隠れする。 かけよろうとするが、蘭は両側から池野と安藤に押さえられた。
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