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そう。国中たちは、どうしたんだろう?
いっしょに漁をして、笑いあった仲間は?
古い友人のように、酔っぱらって肩をくんだ男たちは?
渋沢は言った。
「やつらはキャリアだった。全員、処分した。死体は砂浜で焼いた」
蘭はショックのあまり、シートのなかに、くずれおちた。
(ウソだ……この前、別れたときは、あんなに元気に笑ってたのに)
国中たちの声が耳元で聞こえるような気さえする。
ーー蘭さん。わあにもチューしてごしなはい。国さんばっか、ズルイがね。
ーーそげだ。そげだ。口とは言わんけん。ほっぺでいいけん。
(こんなことなら、もったいぶらなきゃよかった。キスくらい。あきるほど、してやれば……)
でも、もう遅い。
彼らは帰ってこない。
シートのなかで、蘭は泣いた。
渋沢の声がした。
「勘違いしないでくれ。おれたちは自警のために武装はしてる。が、ならず者じゃない。最初は話しあいで、合流させてもらうつもりだった。
だが、やつらがキャリアだとわかった以上、ああするよりなかった。
あんたもキャリアのようだが、取引が成立するなら、何もしない。
あんたたちも過去のことより、これからを考えたほうが特だろ? おれたちと手を組もう。冷静に考えてくれ」
冷静に損得だけ考えるなら、断然、渋沢たちと組んだほうがいい。
メンバーが変わっただけだ。内容は変わらないと割りきればいい。
猛は合理的だ。なんて答えるだろう。
渋沢を許すのだろうか?
いや、それ以前に、こっちは人数で負けてる。物別れになって争うのは危険だ。
しかし、猛は言った。
「やつらは、仲間だった」
静かな声。
でも、蘭にはわかる。
その声に秘められた、猛の強い怒りが。
蘭はワンボックスカーから、とびだした。
「猛さん! ダメだ」
そのときには、すでに、猛は刀をぬいていた。白刃一閃。血がしぶき、渋沢が倒れる。向こうの男たちが叫び、いっせいに、猛に襲いかかる。
「猛さんッ!」
ムチャだ。いくら猛が強くたって、一対三十。分が悪いなんてもんじゃない。
「蘭さん、さがっちょって!」
池野が蘭の手をとり、車内に引き戻そうとする。
「いやだッーー猛さん! 猛さん!」
ひとかたまりになって、争う男たち。
群衆のまんなかに、かろうじて、猛の姿が見え隠れする。
かけよろうとするが、蘭は両側から池野と安藤に押さえられた。
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