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少女たちの一番うしろにいる子。似てる。いや、そっくりだ。
蘭が中学二年のとき、初めて交際した彼女に。そのせいでクラスメートにイジメられて、自殺した沙姫に。
「ーー沙姫?」
思わず、口走っていた。
そんなわけないことは、わかりきってるのに。
沙姫は四十年も前に死んでる。今は、がれきの山か、草原と化した墓地で眠ってる。とっくに土に還ってるだろう。
「あの、わたしですか? わたし、紗希です」
ほかの子が目を輝かせる。
だけど、蘭は、ほかの子なんて、もう目に入ってなかった。
「いや、その奥の子。名前は? 白いリボンの君だよ」
その子はビーズを刺しゅうしたリボンで、ツインテールにしている。
沙姫も、学校には、いつもツインテールで来ていた。
「わたし……? 美沙です。桜井美沙」
「桜井」
沙姫と同じ名字だ。
「もしかして、君のお父さん、京都の人?」
沙姫には兄がいた。もし、その娘なら、沙姫に似ていても不思議はない。
だが、沙姫は首をふった。何か言いたいが、言うことは許されないというように。
「……そう。違うのか」
では、ぐうぜんの一致か。
こんなに瓜二つで、姓まで同じなのに?
なんだか、蘭は沙姫に運命的なものを感じた。
沙姫は蘭にとって、生涯、ただ一人の恋人だ。初めてのキスをし、手をにぎり、恋の高まりを、たがいの心臓に手をあてて、たしかめあった人。
沙姫の自殺があってからは、女を蔑視してた。だから、特定の恋人は作らなかった。ナンパした相手と一夜をともにすることはあっても、それは断じて恋ではなかった。
沙姫だけが特別な人。
年をかさねるにつれ、なつかしく思いだされる。蘭の数少ない青春の思い出だから。
沙姫の生まれ変わりのような、この少女を、このまま行かせてしまうのは忍びない。
「君たち、これから、うちに来ない? いっしょに、お茶を飲もう」
「ええっ、ウソぉ!」
「いいんですか?」
「そんなの夢みたい」
にぎやかに悲鳴をあげる女の子たち。
でも、美沙の反応は違っていた。
なんとなく切ない眼差しで、蘭を見つめる。
白いTシャツの左胸を片手で、つかんだ。
そこが苦しくて、しかたないというように。
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