二章 海と星、金魚

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《未来 美沙2》 いったい、この幸運ラッシュは、なんなんだろう? ご拝謁プレゼントに当選しただけでも、信じられない幸運だというのに。 御子さまに、お声をかけてもらったばかりか、いっしょにお茶。 水魚さまの運んできてくださった玉露と白玉ぜんざいをごちそうになってる。御子さまのとなりで。 「めずらしいですね。蘭が女の子に興味を持つなんて」 「水魚。そういう言いかた、やめてよ。僕がこの子たちを狙ってる狼みたいじゃないか。たまには、にぎやかなのもいいと思っただけ。この子たちも僕のファンみたいだし」 璃々花は興奮してるのか、図々しい。御子さまと水魚さまの会話に割って入る。 「ファンです! 大ファンです! あの、あの……サインしてください!」 「いいよ。色紙、まだ残ってたっけ? 水魚」 「ありますよ。数は多くないけど」 水魚さまが出ていき、色紙と筆ペンを持って帰ってくる。 御子さまは美しい達筆な字で、一人ずつ名前入りのサインをしてくださる。ひとことずつ、みんなの好きな言葉をそえて。 「ええと……ヒメちゃんね。緋色の女で緋女か。いいね。デンジャラス。好きな言葉は? え? 僕の好きな言葉、書いていいの? じゃあ、『永遠に美しく』って書いとくよ。昔、そういう映画があったんだ。不老不死を痛烈に皮肉った話だよ。 僕は、けっこう好きだったーーえ? なに、水魚。映画の話はやめろ? 僕の趣味をばくろするな? キビシイなあ。御子にだって人権はあるよ」 なんだか、御子さまは、じょうぜつだ。あぜ道で、しゃがみこんでたときは、背中をまるめて、ションボリしてるように見えたのに。今はウキウキ、声も、はずんでる。 ちょっと……情緒不安定に見える。 いやいや、そんなことあるわけない。 神様。神様。御子さまは神様だから。 常人に、その御心は計り知れないのだ。 「君は? 美沙。なんて書いてほしい?」 急に声をかけられて、美沙は、あわてふためいた。 「はい! 『八重咲解体のピンチ!』で、お願いします!」 思わず、変なことを口走ってしまった。 御子さまは一瞬、あぜんとした。そのあと、お腹をかかえて笑う。 「いいね。それ、八重咲シリーズ十二作の帯のコピーだよね。僕の本、読んでるんだ」 「もちろんです。でも、最新刊は、まだですけど」
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