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「……じゃあ、猛さん。お願いします」
美沙たちは猛さまにつれられて、外に出た。
しかし、そのときだ。
御子さま御殿の柱のかげから、御子さまが顔をだし、ちょいちょい手招きしてる。
美沙が自分の鼻の頭を指さすと、御子さまは、うなずいた。
璃々花たちは黄色い声をだして、猛さまをかこんでる。御子さまに気づいてるのは、美沙だけのようだ。
美沙は、まわりを見まわし、さっと近づいていった。口早に、御子さまは言う。
「美沙、君のうち、どこ?」
御子さまは、ご拝謁プレゼントのことをご存じない。美沙たちが村の子じゃないことを知らない。そのことは絶対に言ってはならない決まりだ。
「わたしたち、研修所で合宿してるんです」
もしも聞かれたら、こう答えなさいと教えられている。
「ああ。仕事、決めるためのやつね。そうか。それじゃ、悪いことしちゃったな。まあ、教官には水魚から連絡がいってると思うけど。もし叱られたら、僕が誘ったんだって言うんだよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、研修所に泊まってるのか」
なにやら、御子さまは長いこと、美沙の顔を見つめていた。
「ねえ、美沙。今夜、僕と二人で星を見ない?」
「え?」
「ほかの子には、絶対にナイショ。天の川を見ようよ。虫がいい声で鳴くしね。消灯時間になったら、こっそり、ぬけだしておいで。研修所の外で待ってるから」
ウソのような展開に、美沙は、ぼうっとなった。御子さまは手をふって行ってしまった。
「おーい、そこの子。はぐれるな」
猛さまに呼ばれて、美沙は、みんなのとこに帰っていった。けれど、みんなの話が頭に入らない。
「ねえ、ちょっと、美沙。聞いてる? 超ラッキーだったよね。御殿に招かれて、ごいっしょに食事。トランプ……。
こんなこと、わたしたちだけだよ。今までの当選者、ここまでしてもらった人、一人もいないよ」
超ラッキー。前代未聞。
でも、美沙は今、それどころじゃない。
(信じられないよ。ほんとに、こんなことってある? 二人きりで星を……)
待つ時間は長くて、短い。
ぼんやりと、そして、そわそわと待ちわびて、ようやく消灯時間になる。
でも、まだ、みんなが興奮して寝てくれない。
「御子さま、キレイだったねえ。やっぱり、神様だあ。生御子さま、まぶしすぎる」
「たまに、ちょっと変なこと、おっしゃるのが、よけい楽しかった」
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