二章 海と星、金魚

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「そういえば、昼間、田んぼのとこで、何を見てたんですか?」 「あれね。金魚をさがしてたんだよ」 「金魚? 用水路に金魚なんているんですか?」 「いたよ。まだ僕が、ふつうの人間だったころ。一度だけ見かけた。誰かが、お祭りのあと、流したのかもね。 金魚は色が目立つから、自然界では天敵に食べられやすいんだ。かわいそうだろ? あいつが生きのびたのか、ずっと気になってるんだけどね。やっぱり、食べられちゃったのかな。見つからないんだ」 なんで、そんなに、さみしそうに金魚の話をするんだろう。 もしかして、この人は御子になりたかったわけじゃなく、もしかして、この人は不幸なのだろうか……。 「僕も食べられちゃったのかもね。ほんとは、とっくに大きな魚の肉の一部なのに。まだ僕が僕なんだと信じて、夢を見てるのかも。ときどき、そんなふうに思うよ」 「蘭……」 どうしよう。胸が苦しい。 御子さまをふつうに見ていられない。 気がついたときには、御子さまの胸に、しがみついていた。 「美沙」 御子さまの手が、美沙の胸におりてくる。 美沙は息を呑んだ。 胸のドキドキが止まらない。御子さまは、そのドキドキの源をさぐりあてようとしているかのようだ。 ーーうち、こないドキドキしてる。 ーー僕もだよ。 御子さまの唇が、美沙をつつんだ。いきなり大人のキスをされて、美沙はあえいだ。こんなことは学習ソフトでは習わなかった。 「御子さま……」 「僕と、こうするのは、いや?」 いやじゃない。いやじゃないけど、なんだか怖い。でも、御子さまが望むのなら……。 美沙は、だまって御子さまの背に腕をまわした。御子さまは美沙の服の下に指をはわせる。経験したことのない感覚に、美沙はふるえた。 ーー蘭くん……ええよ。うち、蘭くんとなら……。 あのときは、どうしたんだっけ。 「蘭くん……」 ふいに御子さまの手の動きが止まった。ぎこちなく、美沙を離す。御子さまは笑いだした。 「なにやってんだろうね。五十男が小娘相手にさ。笑っちゃうよね」 御子さまは、しばらく、かわいた声で笑っていた。 「帰っていいよ。美沙。悪かったね。僕のヒマつぶしに、つきあわせて」 違う。ヒマつぶしなんかじゃなかった。途中まで、彼は本気だった。 ぐずぐずしてると、蘭は鋭い声をだした。
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