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「僕は君を身代わりにして、なくした自分の青春をとりもどそうとしただけだ。でも、君は沙姫じゃない」
「御子さま……」
「早く行けよ。むりやり犯されたいのか?」
それでもいいと思った。
だけど、御子さまが苦しそうなので、美沙は縁側をおりた。
きっと、この人は一人になったら泣くつもりだ。
ーーまだ、よそうよ。沙姫。高校になってからでいいよね。君のこと、大切だから。
ああ、そう。あのときも、そうだった。
蘭くん。うちの蘭くん。
やさしいとこも、紳士なとこも、みんな好き。ほんとは、とても男らしいところも、みんな、みんな大好きだった。
石段にさしかかったところで、背後で小さく声がした。
「……さよなら。沙姫」
ほんとは、かけもどりたい。でも、ガマンした。もう、この人を解放してあげなければ。
うちが自殺した、ほんとの理由。
二人が一番、幸せなときのまま、時間を止めたかったから。
そのために彼を苦しめてしまった。
彼は沙姫の両親や世間から非難された。そして、自分のからに閉じこもった。
愛のない孤独な道を歩むことを、蘭に決意させたのは、自分なのだ。
(さよなら。うちの蘭くん)
美沙は心のなかで、お別れを告げた。
石段をおりる。涙がポロポロこぼれおちた。
きっと、美沙は沙姫の生まれ変わりなのだ。
だから、こんなに愛しさが、あふれて止まらない。
とぼとぼと石段をおりていると、わきの木かげから人影が現れた。怖い目をした璃々花だ。
「御子さま誘惑するなんて、ありえない。あんた、死刑」
抗うまもなかった。
つきとばされ、美沙は階段をころがりおちた。
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