二章 海と星、金魚

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「僕は君を身代わりにして、なくした自分の青春をとりもどそうとしただけだ。でも、君は沙姫じゃない」 「御子さま……」 「早く行けよ。むりやり犯されたいのか?」 それでもいいと思った。 だけど、御子さまが苦しそうなので、美沙は縁側をおりた。 きっと、この人は一人になったら泣くつもりだ。 ーーまだ、よそうよ。沙姫。高校になってからでいいよね。君のこと、大切だから。 ああ、そう。あのときも、そうだった。 蘭くん。うちの蘭くん。 やさしいとこも、紳士なとこも、みんな好き。ほんとは、とても男らしいところも、みんな、みんな大好きだった。 石段にさしかかったところで、背後で小さく声がした。 「……さよなら。沙姫」 ほんとは、かけもどりたい。でも、ガマンした。もう、この人を解放してあげなければ。 うちが自殺した、ほんとの理由。 二人が一番、幸せなときのまま、時間を止めたかったから。 そのために彼を苦しめてしまった。 彼は沙姫の両親や世間から非難された。そして、自分のからに閉じこもった。 愛のない孤独な道を歩むことを、蘭に決意させたのは、自分なのだ。 (さよなら。うちの蘭くん) 美沙は心のなかで、お別れを告げた。 石段をおりる。涙がポロポロこぼれおちた。 きっと、美沙は沙姫の生まれ変わりなのだ。 だから、こんなに愛しさが、あふれて止まらない。 とぼとぼと石段をおりていると、わきの木かげから人影が現れた。怖い目をした璃々花だ。 「御子さま誘惑するなんて、ありえない。あんた、死刑」 抗うまもなかった。 つきとばされ、美沙は階段をころがりおちた。
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