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目がさめると、美沙は白いカベの病室のようなところにいた。
自分の体から、いろんな管や器具が伸びている。目もかすむし、体はピクリとも動かない。
部屋のなかに、誰か立ってる。
水魚さまと猛さまのようだ。
「蘭は、どうしてますか?」
「放心してるよ。むりもないよな。自分の好きな子が、二度も殺されかけたんだから」
「よく調べたら、あの璃々花という子は、以前、蘭をストーキングしてた女のクローンでした。処分しておきますよ」
「ああ」
「ほかの子は記憶を消して、家に帰しましょう。この子も」
「そのほうがいい。おぼえてても、つらいだけだ」
「近ごろ、蘭が気落ちしてたから、よかれと思ってしたことだったのに。うまくいかないものだ」
猛さまが、ため息をつく。
「今回は、早いかもな。眠りの周期」
水魚さまも、ため息を返した。
「でも、まだ、私や、あなたが死ぬところまでは思いだしてない」
「つらいよ。このために生まれてきたとはいえ」
そこで、水魚さまが、ふりかえった。
「おや。気がつきましたか。安心なさい。ケガは、すぐ治りますよ。それまで、ゆっくり眠るといい。何もかも忘れて」
いやや。忘れとうない。
やっと思いだしたのに。
うちの大切な思い出、とらんといて……。
けれど、意識は混濁した。
美沙は深い眠りに、いざなわれた。
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