第1章

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「意外に都会じゃないか、ここも」  俺は北九州市にある小倉駅で降りて待ち合わせ場所に向かった。いつもは新幹線で博多駅まで向かうので、この途中にある駅で下車することはない。打ち合わせがあるためビールは飲めないが、今日の夜は久しぶりに飲もうと考えている。  待ち合わせ場所は小倉駅の1階にあるトラベルカフェに15時だ。今日、泊まるホテルの中にあるカフェで客と商談することになっている。  客は本を出したいと願っている若者だ。彼がうちのホームページを見て、自費出版で本を出したいというメールを送ってきて、俺はそれを承諾した。それでわざわざ新宿から福岡まで来たというわけだ。  メールで送られてくる作品は大概お粗末なもので、何を主題に置いているかわからないものばかりだが、彼の作品は一味違った。きちんと読めるものは投稿に対して一割もなかったため、久しぶりに俺の心が疼いた。  だからといって、彼の内容がとてもいいかというとそうでもない。文章がしっかり書けているだけで全てを読もうとは思えない代物だった。要は磨かれていない原石を見るようなもので、その一部分が光っているだけに過ぎなかった。 
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