怪談DJ『メール』

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数年前からインターネットラジオで怪談放送をしていた私のもとに、あるメールが届いたのでここに記しておく。 メールの送り主である「鷲尾さん(仮名)」は物心ついた頃から同じ夢を見ていたという。 『幼い私は、見たこともない綺麗な着物を着て、大きな池のほとりに立っています。目の前の池は、吹き付けてくる強い風に波を立てていて、大粒の雨が痛いくらいに体にあたっています。 私はその池がとても怖くて。でも、逃げ出す事が出来ません。なぜなら、私の後ろには大人の男性が数人立っているからです。 彼らは無言ですが、じっと私のことを見ているのが分かります。私が逃げようとすれば、容赦なく捕まえて池の中に投げ込まれてしまうと、夢の中の私は知っています。 どうしようもなくて、仕方なく足を踏み出そうとした瞬間、頭の上で大きな雷の音がして……それで目が覚めます。いつもこんな感じなんです。 私は幼い頃から水が怖くて、水辺はもちろん、学生時代の水泳の授業もできるだけ参加しないようにしていたくらいで、自分からそんな場所へ近づく事はありません。 なので、これは現実の私の記憶ではないと断言できます』 それがどういう意味を持つ夢なのか知りたくて、夢判断を調べたりしていたが全く分からない。という内容だった。 「もしかしたら、鷲尾さんの前世の記憶なのかもしれませんね。不思議なお話です」と返信し、その時はそれで終わりだった。 数ヶ月後、再び鷲尾さんからメールを受け取った。 『実は会社の旅行で沖縄に出かけたのですが、そこで不思議な体験をしました。 観光の途中で立ち寄った場所に、夢に出てくるのとそっくり同じな池があったんです。実際には埋め立てられていて、本来の大きさよりも狭くなっているそうなのですが、間違いなく夢の中の池でした。 そこに立った瞬間、私は全身に鳥肌がたちました。同時に【見つかった】と強く感じたのです。 聞けばその池には水神が棲んでいて、暴風雨が続くと幼い少女を水神への人身御供として差し出していた場所なのだそうです。 となると、私が繰り返し見ていたあの夢は、生け贄を池へ沈めるための儀式だったのかもしれません。 旅行から帰ってきてからも、ずっとその事が頭から離れなくて。 私はまたいつか、あの場所に呼ばれるような気がしてなりません』 一瞬、ネタのための創作なのかとも考えた。
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