世界の終わり

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 「通知ランプが点滅してるのよ。外に、生きている人がいるってことなのよ。その人がこのシェルターに近づいて来たら……助けを求めなきゃ。絶対に、見逃すわけにはいかないんだから……」  壁面のモニター前に置いた椅子に座るミサキは、モニターから視線を動かすことなく、低い声音でつぶやいた。  それはタツミへの言葉というより、彼女自身に自ら言い聞かせているような、自己暗示に近いもののようでもあった。  携帯端末のバッテリー容量がゼロになって以来、ミサキは、こうしてモニター越しに外の様子をずっと監視している。  モニターの横では、通知ランプがゆっくりと脈打つように赤く点滅している。  タツミは、猜疑心に満ちた目でちらりとモニターを見やった。  本来なら、モニターに映るのは、地上へと続く階段の登り口。  格納庫内の壁面と似た色の壁で構成された、狭く薄暗い空間のはずである。  今モニター越しに見えるのは、一面の、雨上がりの空のようにうっすらとした黄色の世界だ。  チリなのか、瓦礫の破片なのか、時折きらめく何かが、目で追えないような速度で縦横無尽に飛び交っている様子から、外界では、猛烈な嵐が起きているようだった。  そしてそれは、言うまでもなく、地上にあるはずの学び舎の建屋が跡形もなく吹き飛んでいるどころか、地下深くまで地表がえぐられ、格納庫は「むき出し」の状態になっているということだ。  吹き飛んでいるのは、学び舎や地表だけではない。  教授も、ショウジも、他の同級生たちも。  地上の、ありとあらゆるものが。  許容範囲を超えてなお余り有る、非情な事実だった。
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