『有ル少女ノ話。』

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「誰か助けて!」 遠くで母の泣き叫ぶ声が聞こえた。 悲鳴と抵抗する音がして、やがて静かになる。 ゆっくりと足音と荒い息遣いがこちらに向かってくるのが分かった。 (気付いてもらえるだろうか、いや、気付かれない方がいいのだけど) なんとなくぼんやりとそんな事を考えた。 出来る限り手足を縮めて身体を小さく見せようと努力はしてみた。けれどそれは無駄な抵抗だったようで、 ピタリと足音が私の前で止まった。 暗い部屋の隅でもその影はとても黒かった。 荒い息遣いが気になって、そっと顔を上げてみる。 『ソレ』はとても真っ黒で、不気味な仮面を付けていた。『ソレ』はところどころに赤い血を付けたままじっと私を見下ろしている。 こんな時どうすればいいのだろう? あぁ、そうだ 「誰か、助けて…?」 これでいいはずだ、多分。 『ソレ』はそのまま動かなかった。 しばらくの沈黙の後、『ソレ』はやがてゆっくりと私に白い手を差し出してきた。 『ダレカ……助ケル…』 ノイズの混じった不気味な声。男か女かも分からないその声に私は考える前にその手を掴んでいた。 ソレはそっと私の手を握ると私を立たせ私を何処かへと引っ張っていく。私に歩幅を合わせゆっくりと、私の元へ来た時と同じ様に静かだった。 バラバラに崩れた母だったモノを踏み越えて私とソレは進む。 さっき聞いたソレの声はなんだか私の声に似ていたような、そんな気がした。
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