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またノックの音が響いた。
さっきまでより長い。しかも叩き方が違う。
今までが『コンコン』なら、この音は『ドンドンドンドン!』。殴りつけるように扉を叩く。
その音と一緒に、警鐘が脳内で鳴り響いていた。
ここを離れなきゃダメ。
扉が開くのを待ってはダメ。
出て来る『もの』を見てはダメ。
足がもつれたけれど、それでも必死にトイレの外へ向かった。よろけ、何度も壁にぶつかりながら、どうにか『女性用』と書かれた札の貼られた壁の外へ出る。
その直後、けたたましい音がトイレ内から響いた。
火災発生などを感知して生る非常ベル。どうやらそれが鳴ったらしい。
店員さんや警備員さんが何にもやって来てトイレに駆け込む。それと同時に悲鳴が聞こえた。
おそるおそる覗いた眼に、信じられない光景が映った。
色レンガで区分けされた、手洗い場と個室のあるトイレスペース。そこが真っ赤に染まっていたのだ。
それを見た直後、私の記憶は途絶えた。
…その後は、記憶もかなり曖昧だ。
倒れた私は警備員室に運ばれ、店の人にアレコレと質問された。それに、見たことの一部始終を答えたのだが、信じもらえた覚えがあまりない。ただ、
私の仕業ではないことだけは判ってもらい、そのまま、この件は他言無用にと言い渡れさて帰路に着いた。
あのトイレで一体何があったのか。もしあの時逃げ出さずにいたら、私はどうなっていたのか。総ては今も謎のままだ。
ちなみなに、今でもこのショッピングセンターは時々利用するけれど、あの件のトイレ以外にも、ここのトイレに入ろうとはもう思わない。
ショッピングセンターのトイレ…完
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